17歳の娘が胃の痛みを訴えた24時間後、その痛みが右を中心とした下腹部へと移動した。
熱を測ると37.4° 、おそらく虫垂炎だろうと思い深夜の救急外来へ行くことにした。
深夜の救急外来
虫垂炎は本来外科の管轄なのだがあいにく内科の医師しかおらず、それでも診てくれるというので待合スペースで待つこと40分。その間に問診票の記入と採尿を指示された。なんの病名を疑ったのか不明なまま尿を提出。
尿検査で判るのは淡白と糖と潜血くらいなものだろう。
しばらくして医師が救急外来にやってきて診察。
現在までの経緯を話すと触診を始めた。
医師の判断は「おそらく虫垂炎だが、私は内科の医師で今日は夜間救急なので、明日外来を受診してください。1日分のお薬を出しておきます」それだけ言うと「はい、いいですよ」と診察は終わった。
結局、尿検査をした理由・その検査で何を知りたかったのか・検査の結果がどうだったのか・その結果から何を判断したのか、一言も触れることはなかった。
何も知ることが出来ないまま検査の費用を請求されるのだ。
そして翌日外来を受診
受付をするとすでにカルテは出来ているはずなのに、受付の女性は何科を受診するのか私に訊いてくる。
カルテには何も書かれていないのか。
前日の医師の指示はないのか。
仕方なく昨日からの経緯を受付で話す。
それでも腹痛なら内科だと言う女性に、昨日の医師がおそらく虫垂炎だと言っていた事を繰り返し話すと、やっと外科にカルテを送りますとのこと。
番号が印刷された受付票と問診票を渡される。
昨日書いた問診票は一体どこへいったのか。
外科の待合で問診票を書きながらふと受付票に目をやると、採尿と言う文字が書かれていた。
不思議に思いながら問診票を書き終えて、採尿について看護師に訊ねようと声をかけると、有無を言わさず「順番でお呼びしますのでお待ちください」と言う。
程なく番号を呼ばれたので返事をすると、私が書いた問診票を眺めながら受診理由を聞いてくる。
「昨日受診してるんですよ? カルテは見てないんですか?」と言う私の問いには答えず、私は同じ話しをすること3度目、ため息が出る。
その看護師は問診票を持って消えた。
検査の押し売り
しばらくすると別の看護師がやってきて、なんの説明もなしに採血・CT・レントゲンを指示する。
この人達は相手が人だという認識がないのか。
カルテを見ても何の判断も出来ず、私に同じ話を何度もさせたにもかかわらず、今度は患者の話も聞かず顔色も見ず、現在の状態や希望も把握することなく高額な検査を受けろという。
私は開いた口が塞がらなく、一瞬呆気にとられた。
私は看護助手という仕事で医療機関に3年程勤務していたことがある。
妹も看護師を仕事としているので、病院というところに少なからず縁があり大体のことは想像がつく。
想像がつくからこそ違和感を覚えるのだと思う。
病気や怪我をし弱った時にしか病院と関係を持たない人にとって、今の話はいたって普通の事なのかもしれない。
私は理由も本当に必要な検査なのかも説明されずに高額な検査を受けることはしない。
娘の炎症所見がどのくらい出ているのかを見る為に必要だと思ったので、とりあえず採血のみを承諾した。
その看護師はまだ娘に診察も受けさせてもらっていない私が、CTとレントゲンを拒否しただけで「どうなっても私達は責任取れませんよ」と言い放った。
たった100円だって、それが必要なものなのか、それが一体何なのかも分からず購入する人はいない。
いたって単純で正当な理屈ではないだろうか。
人にはそれぞれ事情がある。
10人いれば10通り、100人いれば100通り事情がある。
母子家庭の人、年金受給の一人暮らしの老人、体が弱くて働けない人、働いていても十分な収入が得られていない人、家庭が不仲で自分が持てるお金に限りのある人。
具合が悪くて病院に来たけれど、アレコレ検査するお財布の余裕はない。
せめてお薬だけでも処方して欲しい。
色々なリスクをわかった上で、今日の1万円が出せない人だってたくさんいるはずである。
病院関係者、特に現場で働くスタッフはそういう事に無関心なのだ。
そんな事情は自分で事務局に話して何とかしてもらってください、とでも思っているのだろう。
治療方針を決める場に立ち会うスタッフ、つまり医師はそんな事は一切自分には関係ないと思っているらしい。
自分たちはマニュアルやガイドラインに沿ったチェック項目をクリアし治療を終える。
その中に患者の事情や希望は存在しない。
自分たちが患者からお金を貰う商売をしていることをわかっていないのか。
先生、先生と崇めたてられた結果がこれか
血液検査の結果が出て診察室に呼ばれた。
「どうしましたか?」
(ふざけるなっ!)と思ったが、気を取り直して再びこれまでの経緯を話す。これで4度目だ。
炎症数値が上がっている事、触診したところやはり虫垂炎が疑われる事を説明され、数値だけではなくどのくらい炎症が広がっているのかを見たいのでCTとレントゲンを撮らせて欲しいとのこと。
私は納得して検査を了承した。
私は娘の命とお金を天秤にかけているわけではない。
きちんと順を追って説明をし、患者が納得した上で全てを行うのが正しい医療行為であろう。
検査伝票を受け取りCTとレントゲンを撮り、待合で待つこと30分。
再び診察室に呼ばれた。
CTとレントゲン写真を見ながら「ここが炎症している部分です。実際の大きさは○○cmくらいですね。通常は… 」などと説明するのかと思いきや、椅子に座った途端「手術した方がいいですね」と言いだした。
言葉が足りないにも程がある。
すでに私とこの医師との信頼関係は破綻している。
この医師の診断が果たして本当なのかも疑問に思えてきた。
虫垂炎の手術なんて誰がやっても大差ないのは知っているが、もうこの医師を雇っているこの病院で娘を治療するのはやめようと思った。
私は病院を移る事を念頭に置き、出来ることなら手術はしたくない事、今日明日だけでいいので抗生剤内服で様子を見させて欲しいと申し入れた。
昨日もらった抗生剤が効いているらしく、痛みはかなり引いていた。
熱も平熱に戻り本人はニコニコしている。
腹膜炎を起こす寸前ならもっと高熱を出して、吐き気と腹痛で普通に立っていられないはずである。
もちろん症状には必ず個人差があるもので、ニコニコしているからといって悪化していないとも限らないが、そんな娘の状態を踏まえた上でのお願いである。
「どうしてもと言うのなら仕方ありませんが、私の指示に従えないのなら、状態が悪化しても次はウチではなく他の病院へ行ってください」と言われた。予想通りだ。
医師という仕事はこれでいいのか。
この医師の最優先は一体何なのだろう。
今後予想されるリスクをきちんと説明し、食事制限・水分補給・安静を指示し、少しでもネガティブな変化があればすぐに受診するように…くらいのことを言ってくれれば、私の受け取り方も大分違ったものになったはずである。
この医師にとって、ガイドラインに沿った、あるいは自分の思う通りの治療ができない患者は患者ではないのだろう。
大勢いる患者の中のひとりがいなくなっても、俺の腹は痛まないのでょう。
処方した抗生剤が昨日と違うものだということも、飲み方が違うということも一切説明せずに診察は終わった。
私は妹が勤務する病院へ娘を連れて行くことにした。
診察をしてくれた医師は今までの経緯を聞くと、本当はCTもレントゲンも見たいけど、若いお嬢さんに3日と空けずに放射線を照射するのは良くない事なので、今現在の炎症値を確認する為に血液検査だけさせてくださいと言った。
血液検査の結果を見た医師は「かなり炎症値は下がっていて良くなっているみたいですね。このまま抗生剤の内服で様子を見ても大丈夫だと思いますが、決して油断は出来ないので何か変化があったらすぐに受診してくださいね」と言ってくれた。
全て結果オーライだったから今があることは承知しています。
どこかで決定的に判断を間違えていたら、取り返しのつかないことにもなりかねなかったとも思っています。
自分の意地や信念を、娘の健康と天秤にかけるつもりは毛頭ありません。
病院という場所で弱者の立場である患者に対して、医師や看護師の発言や対応が全てを左右するのだと、診断や手技だけではなく、患者を正しい方向へ誘導するのも彼らの仕事なのだと認識して欲しいと強く感じました。
命を救うという医療の現場にもかかわらず、医師や看護師の物の言い方ひとつで命を落としている人がいるのかもしれないとまで思いました。
娘はすっかり回復して、食事制限をしていた反動で「お腹空いた」を繰り返しています。
お粥に付き合っていた私も、なんだか無意識に食べ続けています(笑)。